タイトルこそ若村麓郎だけど、実質的な香取隊の続き。ろくろーと一緒に全国のワ民がダメージを受ける阿鼻叫喚と、またしても色々な描写に遅効性が効いてくるワートリらしさが同居した回でした。
やめてくれヴィザ爺、その言葉は俺に効く
前回に引き続き、若村の人生相談に答えるヒュース。前回でも結構ジャクソンの問題点には踏み込んでいたように思いましたが、あれでも軽いジャブ。今回はえぐい位に踏み込んだ。
ヒュース曰く、「実力」は「チームを勝たせる力」。それは単純に物凄く強いから、ってだけを指すわけではなく。的確に指揮して全体を導く能力等も含まれる。これをタイヤキ屋に例えると、美味いタイヤキ屋がユーマと千佳とするなら、修はそれを売り捌く能力がある、と。分かるよヒュース、タイヤキ美味くて気に入ったんだな。
不運や理不尽も実力=結果っていうの、実にヒュースらしい。未来が見える実力派エリートなんかに対峙しちゃったもんな。トリガーオフする連中が決め手になるとか理解出来ないよな。
期限を設けなければ失敗を正しく認識できずに判定をいつまでも先送りに出来る、これを「足踏みと言う」ってヴィザ爺…それ社会人のワ民に対する特攻ですよ?毎日を特に目標もなく、あたえられた仕事をこなす日々で、成長もクソも無いとかやめてええええええ!!この例だと、分かりやすいのが部活動かな。大会に出る為に絶対に背番号を貰うとか、一つでも多く勝つとか、実力を付けなきゃいけない理由も、それまでの期限と目標がとても明確です。部活動じゃなくても中間と期末のテストもそうか。期限を設けることの大事さは誰もが理解できますね。
チーム単位だと、茜が抜けるのが確定した為にROUND3から今まで以上に気合が入り、上位入りを目標にしていた那須隊が一番分かりやすいですね。明確な期限と目標の有無で考えれば、那須隊が上位入り、香取隊が中位で終わったのもご都合ではなく納得の行く結果。
修は期限がありながら自分が強くなる時間も無かったので別の方向へ実力を伸ばしていったわけですが、考えてみると大規模侵攻がその下地になっていたような気もする。「連れ去られる前に千佳を本部へ逃がす」という目標と期限がありながら、「ただし刻一刻と状況は変わっていくのでノータイムでどうするか考え続けろ」という無理難題をさせられて、トリガーのフル活用から始まり三輪に頼んだりトリガーオフにレプリカ先生投擲と、本当に自分にやれることを全部やらざるを得なかった。思考することも足掻くことも決して止めないというデカい経験をこの時に出来たのも大きかったんじゃないだろうか。
ただそれでもROUND3を経てガンナーのスキルを伸ばそうとして、そこで嵐山さんと出水から丁寧に道を間違えないような指導法を受け、更にROUND4で風間さんに隊長の務めを果たせと言われたり、そして木虎にスパイダーを教えてもらったりと、ランク戦が始まってからも人に恵まれまくってるのがよく分かる。
ただ、この期限を設ける必要があった理由、つまり「余裕が無い」ことがイコール悪いとはヒュースも言っていない。余裕がある自由さから生まれるものもあると言っている。最たるものはTetsuji Arafuneのパーフェクトオールラウンダー量産計画でしょう。あれは荒船自身に急ぐ理由がなく、いずれは達成させたい野望として、自分自身の成長をも含めて長い目で見ているからこそ出てくるもの。
また、大規模侵攻で風間さんに諭されてから成長している笹森、個人の実力が高くて壁らしい壁にぶち当たっていない半崎の両名が若村隊なのもかなり考えられてる人選だと感じた。むしろこの展開をやる為にこの2人をここに入れたんだろうなぁ。
香取隊は香取のワンマンチーム(良くも悪くも)
香取隊がB級上位と中位の間で頭打ちになり、ろくろーだけでなく全員が足踏みしている状態にある理由は、香取が強過ぎて一人で点が取れていたから。残りのメンバーがちょっとフォローしていれば香取のおかげで勝ててしまう、要するに「もう全部あいつ一人でいいんじゃないかな」状態だったわけですね。当然ながら、これではミューラーもろくろーも成長する余地が無い。
振り返ってみると、香取は読者が想像しているよりずっと強い。ROUND5でもユーマとタイイチして欠損しない、いきなりワイヤーを使いこなす、初見とはいえ諏訪さんと那須さんを倒すとか、マスタークラスの実力を間違いなく描写してきてる。・・・が、香取だけが強いんじゃ限度がある。その状態がずっと続いていると。
更に言うと、ROUND5なんかも見返してみると方針を決めてるのは香取、具体的に策の提示などを行ってるのは華さんなので、言ってみれば今の香取隊は「香取と華さんさえいれば後は誰でもいい」そんなチーム。ミューラーとろくろーの代わりは誰でも務まってしまう。
華さんは最終戦が終わった時に「自分達の立ち位置を把握しないと次にどうするか見えてこない」みたいなことを言っていたけど、その前にROUND5でもぎゃああああった時、いやそれどころかそれよりずっと前から、この問題は恐らく上層部からしたら明らかだったんだろうなぁ。ろくろーが隊長になったの、ヒュースが口にした「香取隊を抜ける」ってことを強制的にさせる為にやらせる為だったんだろう。
残酷なのは、結果として色んな武器を試していた香取の方が、ろくろーより実力を伸ばす為の努力をしていたってことになるのか。言い訳でも何でもなく、「香取個人としては」壁にぶち当たっていた。が、ジャクソンが多少ガンナーとしての腕を上げる程度では、香取隊が伸びるのには関係なかったので、ジャクソンは自身が足踏みしている自覚も無かったと。
要約すると「圧倒的な個の力も、高い指揮力等も無い今の若村に実力と言えるものは無い」っていう残酷な事実が浮かび上がってくる。でもねぇ、あまりに等身大の悩みから来てるからめっちゃ分かるんですよ、ジャクソンは基本的に他者に何かを求める一方で、自分は努力しているという自己への逃げというか、ラインを引くような思考になっている感がありますが、その根底は「自分がダメな奴だと分かってしまうのが怖いから」だもん。そんなの誰だってそうだよ。
でもそれに対して自転車を引き合いに出したり、小さく小さく目標を立てて一つずつ刻めば必ず強くなれるとか、最終的なフォローも完璧だったなヒュース。あまりに大きな目標を立てない、コツコツ積み重ねるってのも本当に大事だし。直近までサブトリガーを解禁してもらえてなかった東隊の2人が一番分かりやすい。あれもある程度の成長を確認するというステップを踏んだから次のステップへ進んだ例ですね。
それだけに、ヴィザ爺の「あれだけ優秀な人材」という台詞の重みが今回で更に上がったな。今回の話もモニターされてるなら、恐らくヒュースはA級評価が爆上がりになるだろうし、そこも含めて見事な構成だ。
元からの知り合い同士で組んだから外部からの影響も受けにくい、ってのも要因なんだろうけど、「香取隊が玉狛第二のなんかあった未来」なのは今回で痛いほどに理解出来た。「他者に自分が求める者が本当にあるのか?」とか「他の人も努力を続けている」とか、修が言われたことを今ヒュースに言われたり、ジャクソンは修のなんかあった未来って所があるよね。